ツキ(運)に見はなされたト・ホ・ホ 記

 人それぞれ『春』の釣りをはじめる釣り場はある。ここ6〜7年の私は、栃木県の東古屋湖である。とにかく相性がいい。3年前には40㎝上を4〜5枚、一昨年も44㎝と恵まれている。
 普段なかなかお目にかかれない40㎝級超の大型ベラと出会えるかもしれない数少ないチャンスが春の乗っ込み釣り。そのうえ数釣りも楽しめる。というわけで、千載一遇(ちょっとオーバー)のチャンス、東古屋湖の40㎝級に再会、と3月2 8日に出かけた。
 この日から土・日の高速道は一律1000円。午前4時にもかかわらず東北道・羽生インター付近は車の量が多い。やはり利用者は増えている。
 夜が明けきった午前6時、現地到着。すでに管理事務所前では入漁券購入のニジマスファンがズラリ並び、私もヘラ釣りの入漁券を買うため車から降りたのだが、寒ーい。真冬を思わせる寒さ。事務所の人に聞くと、気温はマイナス2度とか。この早朝のマイナス気温はここ4〜5日続いているとか。そして、水位は満水位からマイナス1mという。
「ちょっと、ヤバイ。乗っ込みには早いか」の予感が。
 それでもウグイスがあちらこちらで鳴き始めていて、春を感じさせる。気を取り直し、私の好きな乗っ込みポイントである最上流域の東古屋橋方面へゆっくり車を走らせた。途中、キャンプ場下、東古屋橋下流の右岸では数名のヘラファンがポイントの品定め? をしている。
 東古屋橋に着き、橋上から上流、下流の湖面にヘラのモジリはないかと目を凝らし、耳を澄ますが、なーい。またニジマス等のハネもない。「ウーン、乗っ込みの条件としては今イチ」だ。聞こえるのは、静かな湖面を渡るウグイスの鳴き声、ときおり吹く冷たい西風の音。
 橋周辺にはまだ釣り人の姿もなく、「ま、ゆっくり始めよう」の気持ちとなり、昨年、一昨年に同行のWさんが好釣りをしたドン深ポイント、橋上手の出っ張りに釣り座をとる。ここは足下からドーンと落ちていて、満水位からマイナス1mの水面は非常に釣りにくいが、40㎝級の期待ができるから……。
 釣り座の後ろは笹藪で、その笹藪のあちこちでウグイスが鳴いている。人の姿を怖れるでもなく、私のすぐ耳許でもホーホケキョ。これにはこちらがビックリしたが、俄然ヤル気も出てきた。
 竿12尺、仕掛けは大型ベラ対策にミチイト2号、ハリス0・8号、ハリは上下とも関スレ8号。ウキは15年愛用している葉舟・二葉12を竿天井の位置にセット(底の取れないポイント)。エサはダンゴとマッシュ(グルテン系)を用意(ヘラが入っていればどちらでも釣れる)。
 午前7時半、両ダンゴでエサ打ち開始。透明度の高いきれいな水なので、ダンゴのバラケていく様がよく見える。1時間、2時間とエサを打ったがヘラの影が見えない。昨年、一昨年の今なら、蚊柱、いやヘラ柱のごとくにヘラの影が見られ、ウキはリズムをきざんだのに……。
 時折強く吹く風は西寄りで着込んだダウンジャケットを通しても冷たく感じられる。ヘラの影を「寒さ こらえて 待ってます」の、せつなーい気持ちになる、北の宿から状態。そして3時間経つも、ヘラの影を水面下に見ることはなかった。
 他の釣り人は? と気になり、橋の下手にひとり入っていたヘラ師の様子を見に行くと、「2時間経つが、まったくヘラの気配が感じられない」とポツリ。宇都宮からきたというその人、東古屋湖はお気に入りのフィールドで通年よく釣行するらしい。私に夏と秋ベラ狙いのポイントを詳しく話してくれる。アタリがないと暇なので口もなめらか、でも今日はちょっと諦めムードが漂っていた。
 釣り座に戻り、気合いを入れて再度エサ打ち。が、ほどなくして西風がより強くなり、吹き荒れ始めた。なすすべなく意気消沈、撤収することに。
 午後1時、帰りしな先ほどの宇都宮のヘラ師はどうしているかと見に行けば、影も形もなかった。「ウーン、先を越された」の思い。
   ※
 翌週の4月4日、東古屋湖に再挑戦。午前7時、前回と同じポイントに入ることができた。といっても釣り人がいない。水位がいくぶん(50㎝ほど)高くなっていた。天候に恵まれ、朝から青い空が広がる快晴だ。前週より条件はよくなっている。あとはヘラが遡上してくるのを待つだけだ。竿、仕掛け、エサ、そしてタナまで同じ。
 期待してエサを打つこと1時間、ヘラの姿はまだない。だが気温は急上昇、雰囲気的には「魚はこの上流部に上がってくるぞ、期待できるぞ」である。2時間、3時間と経ち、時計の針が11時近くになった頃には上着もいらなくなるほど。しかし、ヘラの影も形もない。ヘラの動きはまだ鈍いのか。気分転換に席を立ち、東古屋橋から駐車場下に入っていたヘラ師を見ているとたまに竿を絞る。「ヘラ、出ましたか」と聞けば、「ヘラは20㎝が3枚、ジャミばかり。モジリもないし、もう帰りますわ」という。この上流部、例年ならヘラ師の姿をよく見かけるのに、今回も前回もいないということは釣況が思わしくないのかも知れない。今シーズンの東古屋湖釣行は、タイミングを外したようだ。
 アタリがない。2回連続のボーズとは……。ク、クッ、クルシイー。いや、悔しいー。
 4月15日には1回目の放水があるという。放水が行われるとこの上流部は期待できない。今春はもうだめかもしれない。40㎝級交じりの数釣り、は他の釣り場でということになりそう。
    ※
 追記
 ところで、私の東古屋湖の初釣行は今から35年位前になる。ニジマス、ヤマメ、コイの釣りが主流で、コイのイケスが事務所前にあった。コイ釣りを楽しむ人の中には、当時のヘラ釣りスタイルと同じ石突きと竿掛けの人もいて、ヘラ師がいる!  と間違えた。
 さて、その時はヘラ釣りではなく、ルアーのニジマス狙いだった。勤めていた会社の後輩、フライマンに誘われてのボート釣りだった。ボート上からルアーとフライを、そしてトローリングをしたのだが、私は釣れず、そのうえ後輩の大切にしていた愛用のハーディのバンブーロッドとリールを湖水に落とした。リールが取り付けてあったためロッドは湖底に向かってゆっくりと沈んでいき、やがて見えなくなった。後輩、嘆くことしきり、である。
 帰り際、ションボリの後輩をしり目に、「ヘラブナは釣れるの?」と集金人に聞くと、「ウンニャ、春はデカイのが釣れっぺ」。これが、東古屋湖へのヘラ釣行のきっかけになった。

にしもと
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